東北森林科学会ホームページ開設にあたって

東北森林科学会会長:荻山 紘一(山形大学農学部)

2002年8月20日

 東北森林科学会が発足して以来、本年で7周年を迎えます。初代会長、猪内正雄岩手大学教授は、学会誌第一号の巻頭言において、「本学会の狙いとするところは、東北地域が属する冷温帯の森林・林業に関する科学の総合的発展を通して、地域社会の生活向上と地域環境の保全に寄与する」ことにある、と喝破されています。新世紀を正に迎えんとする、当時の脈々たる意気が伝わってくる気持ちがします。
翻って、この10年間を省みますと、バブル経済の破滅、景気の後退、出生率の低下、若年労働者の減少、大学改革の嵐、IT(情報技術)革命、等々、世紀末から新世紀へかけて、大きな潮流の変化が何か徐々に見えてきた感が致します。
 現今、森林は環境資源としての評価の向上に反し、木質資源としての価値は退行しているようにも見受けられますが、その実、過去にも増してその重要性が期待され、認識されつつあることは、世界各地で催される国際的な会合の主題として森林・環境・資源が必ずといって良いほど、取り上げられることからも自明であります。しかしながら、残念なことに、わが国においては、その担い手たる林業関係者は日々の生活に喘ぎ、森林の維持・管理は等閑にされつつあります。東北の森林を維持し保全し発展させるためには、森林の取り扱い技術の向上だけでは片手落ちであることを再認識する必要があります。長年培った森林管理、森林利用の技術を保持し後代に継承するためにも、森林の経済的価値、木質資源や、その他の林産物資源の高度利用に力をいれて、林業労働者の生活を安定させることを早急に図らなければならない。この点において、一大学人として余りの力不足に打ちのめされてしまいます。このたび、図らずも東北森林科学会会長の役を担うことになりましたが、この難局を如何に切り抜けるか? 自問自答、一入の毎日です。 学会どころか、森林・林学・林業は荒廃の瀬戸際に立たされていると認識すべきかもしれません。
 しかし森林・林業は、単なる物質資源的価値に留まるものではなく、日本人の本質的な生活に繋がる貴重な文化的財産でもあります。あらゆる手段を講じても維持し、発展させて行くべきものであることは言を待たないと考えます。幸いなことに、若い優れた研究者が次々、育ってきています。教育、文化面においても、その重要性が評価され、国の将来につなぐためには、森林の総合的価値の認識と評価が必要であることが理解されつつあります。東北の森林を単に自然の風物に終わらせないために、森林に対し、もっともっと働きかけ、森林との共存を図る道を探りましょう
 今回はIT面の発展を図る一つとして、東北森林科学会のホームページを開設することになり、恥ずかしながら所感の一端をを述べさせていただきました。
 「混沌は新たなる秩序の胎動」と考え、困難な今を乗り切れば、また新たな視野が開けてくることを期待して筆を置きます